新しい風
遺品整理は全く進まず
この家に暮らして一年が過ぎた。
タバコのヤニも破れた網戸もそのままに
主人がこの世を去ったことに気付かないまま
東側の部屋は父を待ち続ける。
誰も来ない家にとうとう客人が来る。
頑なに人を拒んできたが、その人はそよそよとやって来た。
片付けられない事を理由に誰も家に入れたくなかった。
部屋は精神状態を現す。
混乱したまま帰国したあの時から
ずっと頭の中もぐちゃぐちゃだ。
新しい風はそよそよと私の心を揺らし
頬を撫でる。
お父さんの家に君が住んでいる
ただそれだけで良いじゃないか。
それだけ言うと新しいは
また私の頬をそっと撫でて消えた。
人に騙されても人を信じ続けた父と同じように
今度こそはと信じてみたくなる
心地良い風。